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?アフリカンシクリッド飼育とドーベルマン&ウィペットとの日常です。

アフリカ大地溝帯の魚(マラウィ湖編)

マラウィ湖は、29600㎢世界第9位アフリカ第3位、水深706m平均水深292mアフリカ第2位。


800万年前、アフリカ東部で新たな亀裂が生じ、タンガニィカ湖の水は南の亀裂に向かって溢れ出し川となって南へ流れ始めます。水はその先の深い溝に溜まり、やがて湖になりました。マラウィ湖の誕生です。

この時、タンガニィカ湖を出て別の湖を目指した魚達がいます。その魚達は、タンガニィカ湖からの水の流れに乗り、マラウィ湖を目指しました。

しかし、マラウィ湖までの距離は長く、川の流れも激しいものでした。

多くの魚達は、途中で力尽き、目的地にたどり着けたのは一種類のみでした。

その魚こそが、口の中で子育てをするハプロクロミスだったのです。

おそらく彼らは、タンガニィカ湖からマラウィ湖までに至る川の中でも繁殖を繰り返しながら、遠いマラウィ湖を目指したのでしょう。

マウスブリーディングを行う彼らでなければ、きっとマラウィ湖へは到達できなかったことでしょう。


マラウィ湖に到着したハプロクロミスは、爆発的な進化を遂げます。

100万年という短い期間に、たった一種のハプロクロミスが次々と枝分かれし、500種にまで増えたのです。これは、地球上でも類を見ないことです。

チンパンジーと人類は、共通の祖先から枝分かれし進化してきました。

現代人のDNAの98%はチンパンジーと同じとも言われます。

チンパンジーはゴリラよりも、私たち人類に近いのです。

私たちの祖先が、三種の大型類人猿と現生人類に分化するには一千万年以上の年月がかかりました。それに比べると、シクリッドの進化が如何に早いかがわかります。

チンパンジー達は、一部の種が森を出て草原で暮らすようになったことで、その進化に拍車がかかり人類誕生への布石となったと言われます。

しかし、マラウィ湖のシクリッド達は、常に一緒に暮らしているにも関わらず、短いスパンで新しい種を生み出してきました。


では、シクリッドが霊長類の10倍以上の早さで進化したのは何故でしょう。

その秘密は、過酷な食料争いにあります。

通常湖では、風や嵐で水が循環することにより、プランクトンの成長を助けるミネラル分が全体に行き渡ります。

しかし、マラウィ湖のような深い湖の底では、その仕組みが十分に働かず少ない食料をめぐってし烈な競争がおこります。

そこでシクリッド達は、様々な方法で環境に適応していきます。

ある者は、砂の中の有機物だけを濾過して食べ、残りは吐き出します。

ウタカという魚は、極小さなプランクトンだけを食べています。


一方、水面を通して日の光が届く場所では、水深10mあたりまで岩の表面に藻類が生えています。

この藻類を食料とするシクリッドがいます。これがムブナと呼ばれる種です。マラウィ湖のムブナの仲間は、この藻類を上手く分け合って生きられるようになりました。

二つの異なるムブナが、争うことなく岩の藻類を食べるのです。

一方は、岩に頭を直角につけて180°に開く大きな口で食事をします。口の中には、短い歯が数列並んでいて、藻類表面の微小な細胞をすき取って食べるのに適した構造となっています。藻類全体を食べるわけではないので、縄張りの主に追い払われることはありません。

それに対しもう一方は、この岩を縄張りとするムブナです。このムブナは、藻類を噛みちぎるのに適した歯を持っています。30°の角度で下からかぶりつき、まるで牛が草を食むようにムシャムシャと食べます。

こうして、400種ものシクリッドが様々な食べ方をあみ出してきました。

すき取ったり、嚙み切ったり、掬い取ったり、つついたりと…


しかしこうした食料争いの他にも、シクリッドの多様な進化に大きな影響を与えた要因があります。

それが、繁殖活動になります。

これら異なる全ての種のシクリッドの間で、互いに交配をすることはありません。

マラウィ湖では、メス達が交尾の相手に厳しい条件を突き付けます。しかもその条件は種によって異なります。

オスは、メスを引き付けるために湖底に砂山を作ります。この砂山は交尾が成功すれば、メスの産卵場所にもなります。

オス達は、競い合うように思い思いの砂山を作ります。そこへメスがやってきて品定めをするのです。

あるオスは、小さな岩の回りを掘りメスの気に入りそうな斜面を作り、また、あるオスは、円錐状のクレーターのような盛り土を作ります。

そして更にオス達は、品定めに来るメスを求愛ダンスで惹きつけます。

メスは砂山の形や求愛ダンスを見て、じっくりと繁殖相手を選びます。

マラウィ湖のシクリッドの進化を加速させたのは、メスが繁殖相手を選り好みする習性からでした。

新しい種が生まれるのは、一部のメス達が特定の砂山の形を選ぶようになった時です。

メスの好みに偏りが出ると、間も無く種の分化が始まります。

メス達は、気に入らない砂山のオス達を無視するようになり、やがて別々の種に分化するのです。

例えば、クレーターのような盛り土を好むメスは、そうしたクレーターのような盛り土の砂山を作るオスとしか交配しません。そして、その子供達も同じ行動をとることになります。


アフリカ大地溝帯の湖では、日々こうしたドラマチックな生存競争が繰り広げられていきます。


シクリッドは、世界で一番賢い戦略的な魚と言われています。


大地溝帯は今も亀裂を広げ、数十万年〜数百万年後にはアフリカ東部はアフリカ大陸から分断されると言われています。

その時、タンガニィカ湖やマラウィ湖に生息するシクリッド達はどうなるのでしょうか?

天変地異も起こり、海水が流入することにもなるでしょう。

ほとんどの種は生き残れないかもしれません。


でも、思い出してください。


マラウィ湖では、たった一種のハプロクロミスから500種にも枝分かれしたことを、戦略的で賢いシクリッド達は海水にも順応しながら生き残っていくことになるのでしょう。