不可思議
もう何年も前のことですが…。
ある知人から、色鉛筆画の依頼を受けました。
その知人のお嬢様の絵をお願いされたのですが…。
そのお嬢様は、産まれた時に死産だったとしても不思議ではなかったほどの状態で生まれ、誕生したものの医者もほぼ匙を投げてしまうほどだったと聞いています。
そんな状態の彼女が21年もの長い年月の間、素晴らしい生命力で生命を繋いだのだそうです。
彼女は、今の時期と同じような落花盛んな桜吹雪の中で旅立って逝ったそうです。
そんな彼女の絵をお願いされ、普通に元気な女の子ならば可愛らしい洋服や、こんな感じの着物も着たかな?セーラー服も着たよね?といった感じで数枚の色鉛筆画を完成させました。
そして、その色鉛筆画を知人に手渡しました。
数日後…。
依頼された知人から、驚く話を聞かされました。
「描いてくださった絵…。」
「あの着物の絵ですが…。」
「あの着物と同じ色、同じ柄のものを娘は持っているんです。」
と涙声でお話してくださいました。
自分は、そのお嬢様が着物を持っていることすら知らされていなかったために、驚いたなどというものではありませんでした。
きっと彼女が、絵を描く自分の手に、彼女自身の手を添えながら…。
ここはこの色で、ここはこんな柄でと描かせてくれたのでしょう。
お嬢様が亡くなられ、もう10年ほどになります。
桜が散り始めると、何時も思い出す…。
不可思議な出来事です。