アフリカ大地溝帯の魚(タンガニィカ湖編)
アフリカ大地溝帯とはアフリカ大陸を南北に縦断する谷で、境界のプレートの一つです。
総延長7000㌔にも及ぶ大地の割れ目で、グレート・リフト・バレーGreatRiftValleyと呼ばれています。
この谷の亀裂は今も広がり続け、今のままでいけば、数十万〜数百万年後には大地溝帯でアフリカは分断されると予想されています。
この大地溝帯の中に、アフリカの三つの巨大な湖があります。
これがヴィクトリア湖、タンガニィカ湖、そしてマラウィ湖になります。
この三つの湖に住むシクリッドは、優に1000種を超えます。
ヴィクトリア湖は、68800㎢で世界第3位アフリカ第1位、水深84m平均水深40mの湖になります。
「ダーウィンの箱庭」としてあまりにも有名な湖でしたが、商業目的のために同じアフリカに住む外来種のナイルパーチを導入したために、ヴィクトリア湖の在来種であるハプロクロミス亜種数百種類を絶滅に追いやりました。
タンガニィカ湖は、32900㎢世界第6位アフリカ第2位、水深1470m平均水深570mで水深はバイカル湖に次ぐ世界第2位の湖になります。
このタンガニィカ湖には、カンパンゴと呼ばれる子育てをする大型ナマズが知られています。
カンパンゴは夜になるとシクリッドを食べるために狩りをしますが、昼間は逆にシクリッド達に子供を狙われることになります。
12月中旬にマラウィ湖に雨季がやってきます。子育て中のカンパンゴの稚魚は15㎝ほどに成長し、親は稚魚から離れることができません。
では、稚魚達の餌をどうするのか?
この問題を、カンパンゴは見事な方法で解決してみせます。
カンパンゴの母親は、無精卵を産み稚魚達に与えるのです。稚魚達は、メスのお腹の下に集まります。その光景はまるで、哺乳類が母親から母乳を貰う時のようです。
これは、敵に囲まれた湖で進化した驚くべき能力なのです。
無精卵を子供に食べさせる魚は、世界でもカンパンゴしか知られていません。
しかし、このカンパンゴの子育ても完璧というわけにはいきません。
こっそりとカンパンゴの卵の中に自分の卵を紛れさせるサプアと呼ばれるナマズがいます。
鳥のカッコーでよく知られる、托卵という行動を行う魚がいるのです。
カンパンゴは自分の子供だと思い込み、成長したサプアの子供を守り育て続けるのです。
子育てに熱心なカンパンゴの習性を利用した巧妙な手段です。
カンパンゴの巣の15%には、サプアが入り込んでいると考えられています。
シクリッドの中には、敵であるはずのカンパンゴの巣の中に自分の稚魚達を放す種がいます。
カンパンゴはその稚魚達が小さ過ぎて腹の足しにもならないため、食べることも追い払うこともしません。
こうしてシクリッドの稚魚達はカンパンゴに守られて育っていきます。
とても巧妙で、ずる賢い共生です。
一千万年前、大地溝帯の亀裂に川の水が流れ込み、やがてタンガニィカ湖が出来ました。周辺の川に住む小さな魚達が次第にタンガニィカ湖に入ってきます。これが、子育てをするシクリッドの進化の始まりでした。
タンガニィカ湖には、スケールイーターと呼ばれる他のシクリッドの鱗を食べるシクリッドがいたりと、実に得意な種が多く生息しています。
タンガニィカ湖に入ったシクリッド達は、湖の底に卵を産みっぱなしにしていては、卵を守れないことに気付きます。
卵を守るために、シクリッドは進化していきます。闇雲に敵を追い払うだけでは全部の卵を守りきれません。敵に囲まれていて、生存環境が激しかったことがシクリッドを進化させたのです。
カリプテルスは貝殻で巣を作るため、オスが貝殻を探します。
集めた貝殻はメスの家になり、子育ての場にもなります。
しかし、ライバルの貝殻を奪うカリプテルスもいます。奪った貝殻からメスを追い出し、メスが守っていた稚魚は他のシクリッドの餌となってしまいます。
オスが子育てをするのも、シクリッドの特徴になります。
タンガニィカ湖最大のシクリッドであるクーへは、口の中で子育てをします。稚魚に危険が迫ると、クーへは子供を口の中に入れて安全な場所へ運びます。
これをマウスブリィーディングと呼び、この方法はタンガニィカ湖から始まったとされています。
安全な親の口の中ですが、それでも敵は侵入してきます。
それは前述した、托卵をするナマズの存在です。
シノドンティスの仲間は、自分の卵をシクリッドにくわえさせます。
シノドンティスの卵はシクリッドの卵より早く孵化し、シクリッドの卵を食べて成長します。
シクリッドが稚魚を口から出す頃には、口の中からはシノドンティスの子供しか出てこないということになります。
タンガニィカ湖の魚達、特にシクリッド達は実に戦略的な行動をとります。
アフリカ大地溝帯の魚(マラウィ湖編)に続きます。
今回と次回は、記事だけで画像はありません。